研究報告7
フィギュアスケートの3回転ループジャンプにおける
体幹捻転動作が角運動量に及ぼす影響
○ガンスフ マラルエレデン(中京大学大学院 スポーツ科学研究科)・桜井 伸二(中京大学 スポーツ科学部)

【背景】3回転ループ(LP)は主要なジャンプの一つであるが、踏切動作における角運動量生成機序は十分に解明されていない。本研究では、質量と慣性モーメントが最大である体幹に着目し、LPにおける体幹の捻転動作と回転軸周りの角運動量との関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】女子選手10名によるLPを光学式モーションキャプチャ(Vicon, 200Hz)で撮影し、水平面内の肩および腰の回転速度、肩-腰の捻転角度(右肩先行を正)、捻転角速度、回転軸周りの角運動量を算出し、ピアソンの相関係数を求めた。
【結果・考察】捻転角度は踏切開始時が-38.7度で離氷時には+16.8度であった。体幹角運動量と離氷時の捻転角速度(-101.8±115.9 deg/s、範囲:+9.1~-301.7 deg/s)との間に有意な負の相関傾向(r=-0.62、p<.10)、離氷時の腰の回転速度(1119.8±132.8deg/s)との間に有意な正の相関(r=0.67、p<.05)が認められた。この結果から、LPにおいて離氷直前に回転方向へ瞬間的に下胴を回旋させる動作が角運動量生成に寄与している可能性を示唆する。
研究報告8
スケート実習における滑走スキルの習得が授業満足度に及ぼす影響
○伊藤 瑳良(明治学院大学)・廣澤 聖士(桐蔭横浜大学)・梅本 雅之(慶應義塾大学)・野口 和行(慶應義塾大学)

宿泊を伴う実習形式の集中講義では、専門的指導の教授や未経験のスポーツを体験できる貴重な機会となっており、スケート実習もそのひとつである。スケート実習での不安要因と技術習得の関連性や技術指導の即時フィードバック効果について検討した報告はあるものの、スケート実習の満足度につながる具体的な要因については明らかになっていない。そこで、本研究では、K大学のスケート実習を対象に、滑走スキルの習得が授業満足度に及ぼす影響について検討した。4日間の実習に参加した大学生を対象に、アンケート調査を実施し、4段階評価のリッカート尺度による回答および自由記述による回答を得た。自由記述で得られた回答は、テキストマイニング手法を用いて、参加者の主観的な学びや気づきを多角的に分析した。その結果、実習全体の満足度について「満足している」94.1%で「どちらかといえば満足している」5.9%と非常に高い結果となった。その背景には、「スキル」、「向上」、「指導」、「上達」の出現頻度が高い傾向であったことから、専門的指導のもと、スキル向上を実感できたことが楽しさにつながり、実習全体の満足度に影響を及ぼしていることが明らかとなった。
研究報告9
パノラマ映像を用いたアイスホッケー競技における選手追跡手法の提案
○江場 一真(愛知工業大学)・澤野 弘明(愛知工業大学)

アイスホッケーにおける戦術分析では、選手の位置情報が不可欠である。北米のナショナルホッケーリーグではセンサによる高精度な測位が導入されているが、日本国内では手動映像分析が主流で測位精度に課題がある。手動分析は作業負担が大きいため、分析を自動化する研究が行われている。関連研究では、画像処理を用いて各フレームから人物を検出し、検出結果に基づいて追跡する手法が提案されている。パノラマ映像の場合、選手が小さく映る場面や選手が重なる場面で検出精度が低下し、放送用映像よりも追跡の継続が困難となる。そこで本研究では、パノラマ映像においても選手の位置情報を安定的に取得する手法を提案する。提案手法では、各フレームを個別に処理するのではなく、連続フレーム間の時系列的変化を利用して選手の動きを推定・補間し、追跡が途切れる課題に対処する。選手の追跡処理は、初期フレームで手動指定した選手の位置・領域サイズを基に、後続フレームに時系列的に実行する。評価実験では、選手が小さく映る場面や選手同士が重なり合う場面においても、安定した連続追跡を実現した。
研究報告10
スピードスケート競技におけるブレード研磨の実態と課題
—ROC形状に着目して—
○小野寺 峻一(筑波大学人間総合科学研究群)

スピードスケート競技は,メカニカルな要素であるブレードの研磨と管理が非常に重要である.しかし,研磨方法や研磨指導は個人のコツとカンに委ねられており,科学的な根拠や検証に基づくものではないのが現状である.本研究は,スピードスケート競技のブレード研磨において,ROCに対する競技者の認識,ROC形状の実測値に着目して,ブレード研磨の実態を把握し課題を明らかにすることを目的とした.競技歴,ROC研磨基準,ROC値認知において,項目間で有意な差が見られ,競技歴5年以下の競技者は,使用しているブレードの状態を把握しておらず,メンテナンスはチームメイトに任せていた.1シーズンにおけるROC形状の変化量は,R=1.76m〜9.88mであった. また,ROC形状は,3パターンみられ,その組合せは,前後,左右で異なっていた.これらのことから,競技歴や競技レベルとROC形状を維持するための研磨能力には関連がないことが示唆され,定量的なROC値の管理,ブレード研磨および研磨用具のメンテナンス指導体制に課題があることが明らかになった.
研究報告11
画像処理によるアイスホッケー試合映像における
得点・ファウル時刻推定手法の提案
○中野 碧斗(愛知工業大学)・江場 一真(愛知工業大学)・澤野 弘明(愛知工業大学)

スポーツ分析では試合映像から重要なシーンを探す作業には時間的負担がある。この負担を軽減する手段として、タギングアプリが活用されている。タギングアプリでは得点やファウルなどのイベント発生時刻を記録することで、視聴したいシーンをすぐに再生することができ、長時間の試合映像を視聴する必要がなくなる。しかし、現在アイスホッケーの試合分析に使用されているタギングアプリでは手動で時刻を記録する必要があり、タギング作業に負担がかかる。そこで本研究では、タギング作業軽減に向けて、画像処理により、アイスホッケー試合映像における得点およびファウル時刻を推定する手法を提案する。競技規則上、得点やファウル発生時にはコート端のランプが点滅する。提案手法ではこの点滅領域における輝度変化から点滅を検出して発生時刻を記録する。大学アイスホッケーの1試合分の映像に対して提案手法を適用し評価実験を行った。評価実験では提案手法で検出した得点とファウルの時刻一致を目視で確認した。実験の結果、得点およびファウル時刻と再現率100%の精度を推定できた。今後の課題として、フェイスオフ検出手法を検討する。
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