研究報告1
2024-2025リュージュ競技ワールドカップ中国延慶大会報告
○百瀬 定雄(聖徳大学)

発表者が2024-2025リュージュ競技ワールドカップ中国延慶大会にてジュリーを務めた際の報告である。自身が国際審判員資格を取得後、海外での国際競技会で競技役員を務めるのは初めての経験であり、また国際競技会において日本人が競技役員やジュリーを務めるのは初めてのことである。日本におけるソリ競技大会では、長野市スパイラルが唯一国際競技会を開催できる会場であったが、2018年2月をもって経費他の問題で氷上滑走を停止した。それまでアジアリュージュ選手権など、1998年冬季オリンピック長野大会後もアジア地区の拠点施設として国際競技会を開催してきた。スパイラル休止以降、国内はもちろん国際競技会も開催できない状況となった為、FIL(国際リュージュ競技連盟)からの委託も途絶え、国際競技会から遠ざかることとなっていた。2024年4月にFILからワールドカップ第9戦中国延慶大会にジュリー1名の派遣依頼があり、日本連盟内で検討した結果、発表者の経験値を考慮いただきジュリーとして出向くこととなった。競技会での追加種目やルール変更、競技運営方法変更など、国際審判員を取得した後の大会様式との違いを比較考察しながら報告したいと考えている。
研究報告2
アイスホッケー競技におけるシュート動作の個人特性の解析
○小林 秀紹(札幌国際大学)

本研究はアイスホッケー競技のシュート動作におけるキネマティックス変量に対して古典的な頻度論による解析ではなく,動的時間伸縮法(DTW)を中心とする機械学習を適用し,個人特性を捉える手続きについて検討することを目的とした.本研究では異なるシュート方法の比較に焦点を当て,マーカーレスモーションキャプチャーで得られたデータから個人特性を表現する変量や部位について検討することを試みた.対象は大学日本代表の女子アイスホッケー選手1名であった.マーカーレスモーションキャプチャシステムを利用し,動作のキネマティクスデータを取得した.選手はスィープショットおよびスナップショット(左脚軸および右脚軸)の3種類を行った.解析は時系列のキネマティクスデータについてDTWを適用し,時間を正規化せずデータの総当たりで個人の一連の動作の比較を行った.ショットの違いにはロジスティック回帰,ニューラルネットワーク,ランダムフォレストを適用した.解析は全てPythonのライブラリを使用した.解析結果,ショットの種類によってパラメータは大きな変化を示さなかった.
研究報告3
大学男子(ディビジョンA)アイスホッケー選手における力−速度プロファイル
−氷上パフォーマンスとの関係に関する研究−
○中前 彩奈(慶應義塾体育会スケート部ホッケー部門)・神田 迪子(慶應義塾体育会スケート部ホッケー部門)・山口 翔大(慶應義塾大学体育研究所)・西岡 卓哉(慶應義塾大学体育研究所)・稲見 崇孝(慶應義塾大学体育研究所/大学院健康マネジメント研究科)

ジャンプの力−速度プロファイルは、選手の力発揮特性を明確に把握でき、アスリート評価およびトレーニングの個別最適化において重要である。しかし、アイスホッケー選手を対象としたジャンプの力−速度プロファイルに関する研究は少ない。そこで本研究では、大学男子アイスホッケー選手の力ー速度プロファイルを明らかにし、各選手の発揮特性の特徴を捉えるとともに、氷上パフォーマンスとの関係性を検討した。その結果、氷上20mのスプリントにおいて、タイムの速い群は遅い群と比較して、F0(最大筋力)の値が高い傾向が見られた。このことから、氷上スプリントのパフォーマンスを高める上で、最大筋力の向上が重要な要素となる可能性が示唆された。
研究報告4
アイスホッケー選手における氷上および陸上の体力指標間の関係
○神田 迪子(慶應義塾体育会スケート部ホッケー部門)・中前 彩奈(慶應義塾体育会スケート部ホッケー部門)·山口 翔大(慶應義塾大学体育研究所)・西岡 卓哉(慶應義塾大学体育研究所)・稲見 崇孝(慶應義塾大学体育研究所/大学院健康マネジメント研究科)

アイスホッケーは、スケートリンク使用に関するコストの観点から氷上での練習やトレーニング時間を十分に確保できないことが多い。こうした背景から、陸上での補完的なトレーニングをいかに効果的に行うかが重要な課題となっている。そこで本研究では、氷上と陸上における体力指標の関係を明らかにすることで、陸上でのトレーニングの有効性を検証することを目的とした。氷上では6mおよび20mスプリント、さらに方向転換能力を評価するKアジリティを実施し、陸上では同様のスプリントに加えてプロアジリティテストを行った。分析の結果、プロアジリティと氷上スプリントとの間にr = 0.63、プロアジリティとKアジリティとの間にr = 0.65の高い正の相関が認められた。これらの結果は、氷上パフォーマンスの向上を目的とした陸上トレーニングにおいて、特にプロアジリティのような方向転換能力を高めるトレーニングが有効である可能性を示唆するものである。
研究報告5
スピードスケートの静止姿勢からの側方ジャンプにおける遊脚の役割
○松浦 孝則(信州大学大学院総合医理工学研究科)・結城 匡啓(信州大学学術研究院(教育学系))

【目的】本研究では、スピードスケートの陸上模倣動作である静止姿勢からの側方ジャンプ(以下、静止SJ)をキネティクス的に分析し、遊脚動作の違いが静止SJのパフォーマンスに及ぼす影響を検討することを目的とした。【方法】大学生スピードスケート選手6名(男性2名、女性4名)に静止SJを次の2条件で行わせた。(1)遊脚振込なし:遊脚を支持脚の真横に位置させた姿勢からの静止SJ.(2)遊脚意識:「遊脚を後方に位置させ、前方かつ側方にすばやく振り込むように」指示した静止SJ.これらのジャンプ動作を2台のビデオカメラ(60 fps)で撮影するとともに、地面反力を測定した(500 Hz)。【結果】遊脚意識の側方跳躍距離は、遊脚振込なしよりも有意に大きかった(遊脚振込なし:1.76±0.23 m、遊脚意識:1.94±0.18 m、p<0.05)。また、遊脚意識では,体幹の右側屈トルクが生じるようになり、支持脚膝関節の伸展トルクのピーク値が遊脚振込なしよりも大きくなることがわかった(遊脚振込なし:1.2±0.2W/kg、遊脚意識:1.7±0.2W/kg、p<0.05)。
研究報告6
連日の高強度運動が血糖推移に及ぼす影響の事例的検討
−氷上競技サポートへの応用に向けたパイロットスタディ−
○松浦 純奈(龍谷大学農学部食品栄養学科)・松浦 孝則(信州大学大学院総合医理工学研究科)・佐々木 将太(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科)・小塚 美由記(北海道文教大学大学院健康栄養科学研究科)

氷上競技は,寒冷環境かつ高強度の運動によりエネルギー代謝が亢進する.代謝状態を反映する血糖推移の把握は,栄養戦略の立案などコンディショニングに有用と考えられる.本研究は氷上競技サポートへの応用に向けた基礎的知見を得るために,連日の高強度運動が血糖推移に及ぼす影響を検討した.被験者は特定の運動習慣をもたない健常な男子大学生1名とし,5日間連続で低強度運動(L条件)および高強度運動(H条件)を行うクロスオーバー試験を実施した.試験期間は,持続血糖測定器を用いて血糖値を継続的に測定し,食事写真を共有させ炭水化物摂取量を算出した.運動は自転車エルゴメーターを用い,L条件は20W・60rpmで30分間の低強度サイクリング,H条件は体重の6%負荷での20秒間全力サイクリングを3回(セット間休息120秒)行わせた.その結果,5日間の平均炭水化物摂取量および平均血糖値は条件間で有意差を認めなかった(n.s.).しかし,H条件1日目の睡眠中において最低血糖値が顕著に低く(76mg/dL),血糖値変化の大きさを表すMAG(Mean Absolute Glucose)が高値(78.6mg/dL)を示した.